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百姓家


おきゝよ この百姓家から

もれてくるハモニカの聲を

誰かが風呂にはいりながら

ハモニカを吹いてゐるのだ

ほら、湯氣にくもつた硝󠄁子窓に

小さいカンテラの灯が見えるだらう

あの灯の下でぢやぶぢやぶやりながら

吹いてゐるのだ

何といふ奴だらうそいつは

風呂の中でハモニカを吹くなんて

だが僕にはわかつた――この家には

若いがゐるんだ

そいつは、やんちやで、夕を茶わんに十ぱいも喰べ、

母親のことを馬鹿といひ、

昨日おろしたばかりのシヤツを

もう今日は破いてしまふといふ

やつなんだ


だが父󠄁親に叱られでもすると

ひどくしよげてしまつて、

くらいくどばたにゐる母親のところへ

ねだつた金を半󠄁分返󠄁しに來るといつた

やつなんだ

そいつはやんちやで、馬鹿なこともするが、

夢が多くて、犬なんか可愛がつてゐるのだ

そんな若いがこゝの家にはゐるんだ

こんな見すぼらしいかやぶきの

百姓家だが、ここには明るい幸があ

るのだ

おきゝよ、この家の背戶口に

夕やみの中ににほつてゐる

茗荷のほのかなかほりを