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梨
小川の底を
ころがつて來た
吉澤梨園からか
もつと川上の今村あたりの
梨畑からか
螟蟲驅除につかれて
小さいどんどんのそばに
かがんでゐると
冷たい水の底を
丸いのがころがつて來た
ころころところがつて
海の方へ行つてしまつた
海までは遠󠄁いから
途󠄁中で月󠄁夜になつてしまふだらう
月󠄁夜になれば草に蟲が鳴き、
秋草に露が光るだらう
どこかの村には
祭りも近󠄁くて笛太鼓が
鳴つてるだらう
梨は一ひら二ひらの雲の下を
水底にうつる影とともに
ころころところがつて
行くだらう