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「おゝ、あつた! よかつた!」と
息を切らして走つて來た百姓がひろつたのは、
それはいつぽんの肥料びしやくであつた。
百姓㈡
年とった百姓が古い車をひいて來た。
それははばのせまい、まはりの大きい輪をもつた
古い古い じつに古い荷車であつた。
こんな古い車をひきだすのがまちがひのもとなのだ。
それに雨上りで、道󠄁には石がでこぼこしてゐた。
たうとう私のそばで一つの輪がこはれてしまつた。
輪がねだけのこつて、木がばらばらになつてしまつた。
「これは弱󠄁つた」と百姓がいつた。
「こいつはどうも」と私がいつた。
私は手をだしかけたがまたひつこめた
――どうしようもなかつたので。
百姓はばらばらになつた木片をあつめ
輪をくみはじめた。
「こりやわるかつた」と私がいつた。
「こりや何とかならぬか」と百姓がいつた。
じつに何ともならなかつた。
――しかし百姓は輪をしくまうとしつづけた。
私はいつまでも百姓とゐるわけにはいかなかつた、
――學校に遅󠄁刻するので。
私は學校へいつてしまつた
――百姓とこはれた輪をのこして、
――じつに愚直な、はらだたしいばかりに愚直な
ものどもを朝󠄁の路上にのこして。