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おまへのすきな小さな歌を
私は煙草に火をつけて
しみじみ私の工房󠄁を
ながめる
鯉
大きい鯉である
みづあかの上にどんより
しづんでゐる
からだにはたくさんの古
白くふやけ、
ぜんたいを かびのごときものが
おほつてゐる
尾は 千百の戰場をかけめぐつて
きた軍旗のやう
ちぎれちぎれで
よく見ると古綿のごときものが
ぶらさがつてゐる
ガラス玉より生氣のともしい眼は
外も見てゐない 內も見てゐない
かつて漁夫のはだかの胸を
はりたほし
落下する五丈󠄁の瀑布に
反抗し 征服した
あの力はどうしたか
一切はむなしかつた
夢想することも 意󠄁志することも
いかり、あらがひ
ひねくれることも
ああ一切がむなしかつた
この虛脫虛無のそこに
かじかんだ冬󠄁のひざしを
かすかにうけ
そとをゆく砂塵の音󠄁に
きゝいり
泥のやうな いのちが