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かに步みしか知らず。一月上旬の夜なれば、ウンテル、デン、リンデンの酒家、茶店は猶ほ人の出入盛りにて賑はしかりしならめど、ふつに覺えず。我腦中には唯だ我は免すべからぬ罪人なりと思ふ心のみ滿ちたりき。

四階の屋根裏には、エリスはまだ寐ねずと覺ぼしく、烱然たる一星の火、暗き空にすかして明かに見ゆるが、降りしきる鷺の如き雪片に、乍ち掩はれ、乍ち又た顯れて、風に弄ばるゝに似たり。戶口に入りしより疲を覺えて、身の節の痛み堪へ難ければ、這ふ如くに梯を登りつ。庖厨を過ぎ、室の戶を開きて入りしに、机に倚りて襁褓縫ひたりしエリスは振り返へりて、「あつ」と叫びぬ。「いかにかし玉ひし。おん身の姿は。」

驚きしも宜なりけり、蒼然として死人に等しき我面色、帽をばいつの間にか失ひ、髮は蓬ろに亂れて、幾度か道にて跌き倒れしことなれば、衣は泥まじりの雪に汙れ、處々は裂けたれば。

余は答へんとすれど聲出でず、膝の頻りに戰かれて立つに堪へねば、椅子を握まんとせしまでは覺えしが、その儘に地に倒れぬ。

人事を知る程になりしは數週の後なりき。熱劇しくて譫語のみ言ひしを、エリスが慇にみとる程に、或日相澤は尋ね來て、余がかれに隱したる顚末を審らに知りて、大臣には病の事のみ吿げ、よきやうに繕ひ置きしなり。余は始めて病牀に侍するエリスを見て、その變りたる姿に驚きぬ。彼はこの數週の內にいたく瘦せて、血走りし目は窪み、灰色の頰は落ちたり。相澤の助にて日々の生計には窮せざりしが、此恩人は彼を精神的に殺したり。

後に聞けば彼は相澤に逢ひしとき、余が相澤に與へし約束を聞き、又たかの夕べ大臣に聞え上げし