徒 然 草
つれ〴〵なるまゝに、日ぐらし硯にむかひて、心にうつり行くよしなしごとを、そこはかとなく[1]書きつくれば,あやしうこそ物狂ほしけれ。
いでや、この世に生れては、願はしかるべき事こそ多かンめれ。帝の御位はいともかしこし。竹の園生[2]の末葉まで、人間の種ならぬぞやんごとなき。一の人の御ありさまはさらなり、たゞうども、舍人[3]なンどたまはる際はゆゝしと見ゆ。その子孫までは,はふれにたれど[4]なほなまめかし。それより下つかたは、ほどにつけつゝ、時に逢ひ、したり顔なるも、みづからはいみじと思ふらめど、いと口をし。法師ばかり羨しからぬものはあらじ。人には木の端のやうに思はるゝよと、淸少納言が書けるも、げにさることぞかし。勢猛にのゝしりたるにつけて,いみじ[5]とは見えす。增賀聖のいひけんやうに、名聞ぐるし
- ↑ 漫然と
- ↑ 皇族
- ↑ 朝廷より賜はる従者、随身
- ↑ おちぶれたるも
- ↑ えらい、立派