Page:Makuranososhi-hojoki-tsureduregusa.djvu/309

このページは検証済みです
297
方丈記

方 丈 記

行く川のながれは絕えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかた[1]は、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまることなし。世の中にある人と住家すみかと、またかくの如し。玉敷たましきの都の中に、むねを竝べいらかを爭へる、たかいやしき人の住居すまひは、代々を經てつきせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家は稀なり。或は去年こぞ破れて[2]今年は造り、あるは大家たいか滅びて小家せうかとなる。住む人もこれにおなじ。處もかはらす、人もおほかれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、僅に一人ひとり二人ふたりなり。あしたに死し、夕に生るゝならひ、たゞ水の泡にぞ似たりける。知らず、生れ死ぬる人、何方いづかたより來りて、何方いづかたへか去る。又知らず、假の宿やどり、誰が爲に心をなやまし、何によりてか目を悅ばしむる。その主人あるじ住家すみかと、無常むじやうを爭ひ去るさま、いはゞ朝顏の露に異ならず。或は露おちて花殘

  1. 泡沫
  2. 一本やけてに作る