方 丈 記
行く川のながれは絕えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかた[1]は、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまることなし。世の中にある人と住家と、またかくの如し。玉敷の都の中に、棟を竝べ甕を爭へる、尊き卑しき人の住居は、代々を經てつきせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家は稀なり。或は去年破れて[2]今年は造り、あるは大家滅びて小家となる。住む人もこれにおなじ。處もかはらす、人もおほかれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、僅に一人二人なり。朝に死し、夕に生るゝならひ、たゞ水の泡にぞ似たりける。知らず、生れ死ぬる人、何方より來りて、何方へか去る。又知らず、假の宿、誰が爲に心をなやまし、何によりてか目を悅ばしむる。その主人と住家と、無常を爭ひ去るさま、いはゞ朝顏の露に異ならず。或は露おちて花殘
- ↑ 泡沫
- ↑ 一本やけてに作る