62
「我に兒あり、我に財あり」とて、愚者は苦む、己、己のものに非ず、況や兒をや、況や財をや。
63
愚者の〔自ら〕愚なりと思へる、彼これによりて賢者たり、愚者の賢者の思せる、彼こそは愚者と云はるれ。
64
愚者は生を終ふるまで、賢者に奉事すとも、法を知らざること、猶ほ食匙の羹味を〔辨ぜざる〕が如し。
65
賢者は、假令瞬時も、賢者に奉事せば、疾く法を知ること、猶ほ舌の羹味を〔辨ずる〕が如し。
66
無智なる愚者は己、己の敵なるが如く振舞ふ、苦果を〔生ずべき〕罪業を身に行うて。
67
行うて後悔ひ、淚顏啼哭して、其の果報を受くべき業は、善く爲されたるにあらず。
68
行うて後悔なく、歡喜悅豫して、其の果報を受くべき業は、善く爲されたるなり。
69
罪業の未だ熟せざる閒は、愚者之を蜜の如しと思ひ、罪業の熟するや、愚者は其の時苦惱を受く。
70
(2)愚〔なる行〕者は、月に月に、茅の端にて食を取るとも、斯る人は善法行者の十六分の一にも値せず。
71
犯したる罪業は、固結せざること新しき乳の如く、〔而も〕灰に覆はれたる火の如く、燻りつつ、愚者に追隨す。
72
愚者の智慧の起ること、其の不利の爲なる閒は、これ此の愚者の好運を損し、其の頭を碎く。
73
〔愚者〕は僞の名聞を願ひ、諸比丘の中にて上位に居らんと〔望み〕、家にありては主となり、他族の閒には供養を〔得んと望む〕。
74
「在家出家共に、我之を爲せりと思へかし、總て爲すべき事、爲すべからざる事に於いて、皆我が命を受けよかし」、これ愚者の心にして欲と慢とは〔ために〕增