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て、遂に敵にくだらず、死をやすくしてのち、はじめて名をあらはすべき道なり。生けらむほどは武にほこるべからず。人倫にとほく禽獸に近きふるまひ、その家にあらずば好みて益なきことなり。

屛風障子などの繪も文字もかたくなゝる筆樣して書きたるが、見にくきよりも、宿のあるじの拙くおぼゆるなり。大かたもてる調度にても、心おとりせらるゝ事はありぬべし。さのみよきものを持つべしとにもあらず、損ぜざらむためとて、品なく見にくきさまにしなし、めづらしからむとて、用なき事どもしそへ、わづらはしくこのみなせるをいふなり。ふるめかしきやうにて、いたくことごとしからず、つひえもなくて物がらのよきがよきなり。「うすものゝ表紙はとく損ずるがわびしき」と人のいひしに、頓阿が、「うすものはかみしもはづれ、らでんの軸は貝落ちて後こそいみじけれ」と申し侍りしこそ心まさりておぼえしか。一部とある草紙などのおなじやうにもあらぬを、見にくしといへど、弘融僧都が、「ものをかならず一具に整へむとするは、つたなきものゝすることなり。不具なるこそよけれ」といひしも、いみじくおぼえしなり。「すべて何もみな事のとゝのほりたるはあしきことなり。しのこしたるをさてうちおきたるは、おもしろくいきのぶるわざなり。內裏造らるゝにも、必つくりはてぬ所を殘すことなり」とある人申し侍りしなり。先賢の作れる內外の文にも、章段のかけたることのみぞはべる。

竹林院入道左大臣殿〈公衡〉、太政大臣にあがり給はむに、何のとゞこほりかおはせむなれども、め