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堪へがたきことなり。深き水はすゞしげなし。淺くて流れたる遙にすゞし。こまかなるものを見るに、遣り戶は蔀の間よりもあかし。天井の高きは冬寒くともしびくらし。造作は用なき所をつくりたる、見るもおもしろく、よろづの用にもたちてよしとぞ、人のさだめあひ侍りし。

久しくへだゝりて逢ひたる人の、我が方にありつること、かずかずにのこりなく語りつゞくるこそあいなけれ。へだてなくなれぬる人も、程へて見るははづかしからぬかは。次ざまの人は、あからさまに立ち出でゝも、興ありつる事とて、息もつきあへず語り興ずるぞかし。よき人の物がたりするは、人あまたあれど、一人に向きていふを、おのづから人もきくにこそあれ。よからぬ人は誰ともなくあまたの中にうち出でゝ、見る事のやうに語りなせば、皆同じく笑ひのゝしる、いとらうがはし。をかしき事をいひても、いたく興ぜぬと、興なきことをいひても、よく笑ふにぞ、品のほどはかられぬべき。人の見ざまのよしあし、ざえある人はそのごとなど定めあへるに、おのが身に〈をイ〉ひきかけていひ出でたるいとわびし。

人のかたり出でたる歌物語の、歌のわろきこそほいなけれ。すこしその道知らむ人は、いみじと思ひてはかたらじ。すべていとも知らぬ道の物がたりしたる、かたはらいたく聞きにくし。

道心あらば住む所にしもよらじ。家にあり人にまじはるとも、後世をねがはむにかたかるべきかはといふは、更に後世知らぬ人なり。げにはこの世をはかなみ、かならず生死を出でむ