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 「かりそめに立ちわかれても子を思ふおもひを富士の煙とぞ見し」。

また權中納言の君、こまやかに文かきて、「くだり給ひし後は、歌よむ友もなくて、秋になりてはいとゞ思ひいで聞ゆるまゝに、ひとり月をのみながめあかして」など書きて、

 「あづまぢの空なつかしきかたみだに忍ぶなみだにくもる月かげ」。

この御返り事、「これもふるさとの戀しさ」などかきて、

 「かよふらしみやこの外の月見ても空なつかしきおなじながめは」。

都の歌どもこののち多くつもりたり。又かきつくべし。

 「しきしまや やまとのくには あめつちの ひらけはじめし

  むかしより いはとをあけて おもしろき かぐらのことば

  うたひてし さればかしこき ためしとて ひじりの御世の

  みちしるく ひとのこゝろを たねとして よろづのわざを

  ことのはに おにがみまでも あはれとて 八しまのほかの

  よつのうみ なみもしづかに をさまりて そらふくかぜも

  やはらかに えだもならさず ふるあめも ときさだまれば

  きみぎみの みことのまゝに したがひて わかのうらぢの

  もしほぐさ かきあつめたる 跡おほく〈おほしイ〉 それがなかにも

  名をとめて 三代までつぎし ひとの子の おやのとりわき