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讚岐典侍日記

讚岐典侍日記上

五月〈嘉承二年〉空もくもらはしく、田子の裳すそも干し侘ぶらむとことわりも見え、さらぬだに物むつかしさ頃しも、心長閑なる里居に常よりもむかし今の事思ひ績けられて物哀れなれば、はしを見出して見れば、雲のたゝずまひ空の氣色思ひ知り顔に村雲がちなるを見るにも、雲居の空といひけむ人もわりと見えて、かきくらさるゝ心地ぞする。軒のあやめの雫に異ならず山郭公も諸共に香をうち語らひて、はかなく明くる夏の夜な夜な過ぎもて、いそのかみふりにし昔の事を思ひ出でられて泪とゞまらず。思ひ出づれば、我が君