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思はむを、死ぬばかりも思ひかゝれかし。人のむすめ、まだ見ぬ人などをもよしと聞くをこそはいかでとも思ふなれ。かつ女の目にもわろしと思ふを思ふはいかなる事にかあらむ。かたちいとよく心もをかしき人の、手もよう書き、歌をもあはれによみておこせなどするを、返事はさかしらにうちするものから寄りつかず、らうたげにうち泣きて居たるを、見捨てゝいきなどするは、あさましうおほやけばらだちてけんぞくの心ちも心憂く見ゆべけれど、身のうへにてはつゆ心ぐるしきを思ひ知らぬよ。

よろづの事よりも情ある事は、男はさらなり、女もこそめでたくおぼゆれ。なげの詞なれど、せちに心に深く入らねと、いとほしき事をいとほしとも、あはれなるをばけにいかに思ふらむなどいひけるを、傳へて聞きたるはさし向けていふよりも嬉し。いかでこの人に思ひ知りけりとも見えにしがなと、常にこそおぼゆれ。必思ふべき人とふべき人は、さるべきことなれば、取りわかれしもせず、さもあるまじき人のさしいらへをも、心易くしたるは嬉しきわざなり。いとやすき事なれど更にえあらぬ事ぞかし。大方心よき人のまことにかどなからぬは男も女もありがたき事なめり。又さる人も多かるべし。

人のうへいふを腹だつ人こそいとわりなけれ。いかでかはあらむ、我が身をさし置きてさばかりもどかしくいはまほしきものやはある。されどけしからぬやうにもあり、又おのづから聞きつけて恨みもぞする。あいなし。又思ひ放つまじきあたりはいとほしなど思ひ解けば、念じていはぬをや、さだになくばうち出で笑ひもしつべし。

人の顏にとりわきてよしと見ゆる所は、度ごとに見れどもあなをかし珍しとこそおぼゆれ。繪などはあまたた