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したる火の光に、御几帳の紐のいとつやゝかに見え、みすのもかうのあげたる、このきはやかなるもけざやかに見ゆ。よく調じたる火桶の灰淸げにおこしたる火に、よく書きたる繪の見えたるをかし。はしのいときはやかにすぢかひたるもをかし。夜いたう更けて人の皆ねぬる後にとのかたにて、殿上人など物いふに、奧に碁石けにいる音のあまた聞えたるいと心にくし。簀子に火ともしたる。物へだてゝ聞くに人の忍ぶるが夜中などうち驚きていふ事は聞えず、男も忍びやかにうち笑ひたるこそ何事ならむとをかしけれ。

     島は

浮島、八十島、たはれ島、水島、松が浦島、籬の島、豐浦の島、たと島。

     濱は

そとの濱、吹上の濱、長濱、うちでの濱、もろよせの濱。千里の濱こそ廣うおもひやらるれ。

     浦は

をふの浦、鹽竈の浦、志賀の浦、名高の浦、こりずまの浦、和歌の浦。

     寺は

壺坂、笠置、法輪。高野は弘法大師の御すみかなるがあはれなるなり。石山、こ川、志賀。

     經は

法華きやうはさらなり。千手經、普賢十願、ずゐぐ經、尊勝陀羅尼、阿彌陀の大ず、ぜんず陀羅尼。