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ふもいとをかし。「これに何とらせむ」といふを聞かせ給ひて「いみじうなどかくかたはらいたきことはせさせつる。えこそ聞かで耳をふたぎてありつれ。そのきぬ一つとらせてとくやりてよ」と仰せ事あれば、とりて「それ賜はらするぞ。きぬすゝけたり、白くて着よ」とて投げとらせたれば、伏し拜みて肩にぞうちかけて舞ふものか。まことににくゝて皆入りにし。のちにはならいたるにや、常に見えしらがひてありく。やがて常陸のすけとつけたり。きぬもしろめずおなじすゝけにてあれば「いづちやりにけむ」などにくむに、右近の內侍の參りたるに「かゝる物なむかたらひつけて置きためる。かうして常にくること」とありしやうなど小兵衞といふ人してまねばせて聞かせ給へば「あれいかで見侍らむ。かならず見せさせ命へ。御得意なゝり。更によも語らひとらじ」など笑ふ。その後また尼なるかたはのいとあてやかなるが出できたるを、又呼び出でゝ物など問ふに、これは耻かしげに思ひてあはれなればきぬひとつたまはせたるを、伏し拜むはされどよし。さてうちなき悅びて出でぬるを、はやこの常陸の介いきあひて見てけり。その後いと久しく見えねど誰かは思ひ出でむ。さてしはすの十よ日のほどに、雪いと高うふりたるを、女房どもなどしてものゝふたに入れつゝいと多くおくを「おなじくは庭にまことの山を作らせ侍らむ」とてさぶらひ召して「仰せ事にて」といへば、あつまりてつくるに、とのもりづかさの人にて御きよめに參りたるなども皆よりていと高くつくりなす。宮づかさなど參り集まりてことくはへことにつくれば、所の衆三四人參りたる。殿守づかさの人も二十人ばかりになりにけり。里なるさぶらひ召しに遺しなど