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     いとほしげなきもの

人によみて取らせたる歌の譽めらるゝ、されどそれはよし。遠きありきする人のつきづきえん尋ねて文えむといはすれば、知りたる人のがりなほざりにかきて遣りたるに、なまいたはりなりと腹立ちて返り事もとらせでむとくにいひなしたる。

     こゝちよげなるもの

卯杖のことぶき〈ほふしイ〉、かぐらのにんぢやう、池のはちすの村雨にあひたる、ごりやうゑのうまをさ、又御りやうゑ〈祇園イ〉のふりはた。

     とりもてるもの

くゞつのことゝ〈一字イ無〉り、除目に第一の國得たる人。

御佛名のあした〈又の日イ〉地獄〈のイ有〉繪の御屛風取りわたして、宮に御覽ぜさせ奉り給ふ。いみじうゆゝしき事限りなし。「これ見よかし」と仰せらるれど「更に見侍らじ」とてゆゝしさにうへやに隱れふしぬ。雨いたく降りてつれづれなりとて殿上人うへのみつぼねに召して御あそびあり。みちかたの少納言琵琶いとめでたし。なりまさの君さうのこと、ゆきなり笛、經房の中將さうの笛などいとおもしろうひとわたり遊びて、琵琶ひきやみたるほどに、大納言殿〈伊周〉の「琵琶の聲はやめて物語することおそし」といふ事をずんじ給ひしに、隱れふしたりしも起き出でゝ、「罪はおそろしけれど猶物のめでたきはえやむまじ」とて笑はる。御聲などのすぐれたるにはあらねど、折のことさらに作りいでたるやうなりしなり。