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のいと淸げなるがさし出でゝ「なにがし殿の人やさふらふ」などいひたるをかし。

     たきは

おとなしの瀧。ふるの瀧は法皇の御覽じにおはしけむこそめでたけれ。那智の瀧は熊野にあるがあはれなるなり。とゞろきの瀧はいかにかしかましくおそろしからむ。

     川は

飛鳥川、淵瀨さだめなくはかなからむといとあはれなり。大井川、泉川、水無瀨川。みゝと川、又何事をさしもさかしく聞きけむとをかし。おとなし川、思はずなる名とをかしきなり。ほそだに川、たまほし川、ぬき川。澤田川、催馬樂などのおもひはするなるべし。なのりその川。名取川もいかなる名を取りたるにかと聞かまほし。吉野川。あまの川、このしたにもあるなり。「七夕つめに宿からむ」と業平が詠みけむもましてをかし。

     はしは

あさむつの橋、ながらの橋、あまびこの橋、濱名の橋、ひとつ橋、佐野の舟橋、うたじめの橋、とゞろきの橋、をがはの橋、かけはし、せたの橋、木曾路の橋、堀江の橋、かさゝぎの橋、ゆきあひの橋、をのゝうきはし。山すげの橋、名を聞きたるをかし。うたゝねの橋。

     里は

あふさかの里、ながめの里、いさめの里、人づまの里、たのめの里、朝風の里、夕日の里、とをちの里、伏見の里、ながゐの里。つまどりの里、人にとられたるにやあらむ、我が取りたるに