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べきたよりなりかし。まかでゝ聞けば、あやしき家の見どころもなき梅などには華やかにぞ鳴く。よるなかぬもいぎたなき心ちすれども今はいかゞせむ。夏秋の末までおい聲に鳴きてむしくひなど、やうもあらぬものは名をつけかへていふぞ口惜しくすごき心ちする。それも雀などやうに、常にある鳥ならばさもおぼゆまじ。春なくゆゑこそはあらめ。年立ちかへるなどをかしきことに歌にもふみにも作るなるは、猶春のうちならましかばいかにをかしからまし。人をも人げなう世のおぼえあなづらはしうなりそめにたるをば、そしりやはする。鳶、烏などのうへは見いれ聞きいれなどする人世になしかし。さればいみじかるべきものとなりたればと思ふに心ゆかぬ心ちするなり。祭のかへさ見るとて、うりんゐん、知足院などの前に車をたてたれば、杜鵑もしのばぬにやあらむ鳴くに、いとようまねび似せて木高き木どもの中に、もろごえに鳴きたるこそさすがにをかしけれ。杜鵑は猶更に言ふべきかたなし。いつしかしたり顏にも聞え、歌に、卯の花、花橘などにやどりをして、はたかくれたるもねたげなる心ばへなり。五月雨の短夜にねざめをしていかで人よりさきに聞かむとまたれて、夜深くうち出でたる聲のらうらうしうあいぎやうづきたる、いみじう心あくがれ、せむかたなし。みなづきになりぬれば、おともせずなりぬる、すべていふもおろかなり。よるなくものすべていづれもいづれもめでたし。ちごどものみぞさしもなき。

     あてなるもの

うす色にしらがさねのかざみ、かりのこ。けづりひのあまづらに入りて新しきかなまりに入