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「ふる年にせち分するを、こなたに」などいはせて、

 「いとせめて思ふ心を年のうちにはるくることもしらせてしがな」。

かへり事なし。又ほどなき事をすくせなどやありけむ、

 「かひなくて年暮れはつる物ならば春にもあはぬ身ともこそなれ」。

こたみもなし。いかなるにかあらむと思ふほどに、かういふ人あまたあなりと聞く。さてなるべし、

 「我ならぬ人まつならば待つといはでいたくな越しそ沖つ白浪」。

返り事、

 「越しもせずこさずもあらず浪よせの濱はかけつゝ年をこそ經れ」。

年せめ〈二字かへりイ〉て、

 「さもこそは浪の心はつらからめとしさへ越ゆるまつもありけり」。

かへりごと、

 「千歲經るまつもこそあれほどもなく越えては歸る程やとほか〈まらイ〉ず」

とぞある。あやし、なでふ事ぞと思ふ。風〈ふ脫歟〉きあるゝほどにやる、

 「吹く風につけてもものを思ふかな大海の浪のしづこゝろなく」

とてやりたるに、「聞ゆべき人は今日のことを知りてなむ」と、異手してひと葉ついたる枝につけたる。たちかへり「いとほしう」などいひて、