Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/150

このページは校正済みです

程にも侍ふべしとあれば、立つなゝり」とて、几帳のほころびよりかきわけて見出せば、簀子にともしたりつる火は、早う消えにけり。內には物のしりへにともしたれば、光ありて、との消えぬるも知られぬなりけり。影もや見えつらむと思ふにあさましうて、「腹黑う、きえぬとものたまはせで」といへば「何かは、侍ふ人も、答へで立ちにけり、來そめぬれば、しばしはものしつゝ同じ事をものすれど、こゝには御ゆるされあらむ所よりさぞあらむときこそは、わびてもあべかめれと思ふ人〈二字へカ〉ば、せ〈やイ〉んことなき許されはなりにたるを」とて、かしかましう責む。「この程こそは殿にも仰せは〈ありイ有〉し。二十よ日のほどなむよき日はあなる」とてせめらるれど、佐、司〈の使イ有〉にとて祭にものすべければその事をのみ思ふに、人はいにき〈二字もひイ〉のはつるを待ちけり。みそぎの日犬の死にたるを見つけて、いふかひなくとまりぬ。さて猶こゝにはいといちはやき心ちすれば思ひかくる事もなきを「これそよりかくなむ仰せありき〈如元〉」とて「せむること聞えよ」とのみあれば、いかでさはのたまはせ〈る脫歟〉にかあらむ、いとかしかましければ見せ奉りつべくて御返りこといひたれば「さは思ひしかども、佐の急ぎしつる程にて、いとは〈るイ有〉かになむなりにける。おもへ〈三字もしイ〉御心變らずば、八月ばかりになむ、なりに〈二字にもイ〉ものし給へかし」とあれば、いとめやき心ちして「かくなむはべめる。いちはやかりけるこよみは、ふぢやうなりとは、さればこそ聞えさせしか」と物したれば、返り事もなくて、とばかりありて「みづからいと腹立しき事聞えさせになむ參りつる」とあれば「何事にか、いとおどろおどろしく侍らむ。さらばこなたに」といはせたれば、「よしよしかう夜晝參りつるとあれば何ごとに