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に文とりて歸りたるを見れば紅の薄葉一かさねにて紅梅につけたり。詞は「いそのかみといふことは知ろしめしたらむかし。

  春雨にぬれたる花の枝よりも人知れぬ身のそでぞわりなき。

あが君あが君猶おはしませ」と書きて、などにかあらむ、あが君とあるうへは、かいけちたり。佐「いかゞせむ」といへば、「あなむづかしや。道になむ逢ひたるとて、參うでられね」とて出しつ。かへりて、「などか御せうそく聞えさせ給ふあひだにても、御返りのなかるべきといみじう恨み聞え給へ〈一字ひつイ〉る」など語るそ〈にイ〉今二日三日ばかりありて、からうじて見せ奉りつ。「のたまひつるやうは、何かは、今思ひ定めて」となむいひてしかば、「返り事は早うおし量りてものせよ。まだきに來むとあることなむびんなかめる。そこにむすめありといふ事は、なべて知る人もあらじ。人ことやうにもこそ聞けとなむのたまふ」と聞くに、あな腹立し、そのいはむ人を知るは、なぞと思はむかし。さて返り事今日ぞものする。「この覺えぬ御せうそこはこの除目の德にやと思ひたまへしかば、即ちも聞えさすべかりしを、殿はなどのたまはせたる事のいとあやしう覺束なきを、尋ね侍るほどのもろこしばかりになりにければなむ。されど猶心えはべらぬは、いと聞えさせむ方なく」とて、ものしつ。はしに「曹司にとのたまはせたる武藏は、みだりに人をとこそ聞きさすめれ」となむ。さて後同じやうなることどもあり。かへりごと、たびことにしもあらぬに、いたうはゞかりたり。』三月になりぬ。むかしこゝにも、女房につけて申しつかせければ、その人の返りごと見せにあ〈やイ〉り、「おぼめかせ給ふめればな