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僧正御かしづきものにておはしますめり。この宮たちの御妹の女宮二人、一所はやがて三條院の御時の齋宮にて下らせ給ひにしを、のぼらせ給ひて後、荒三位道雅にわたらせ給ひければ、三條院も御惱みの折いとあさましきことにおぼし歎きて、尼にならせ給ひてうせ給ひにき。今一所の女宮は坐します。〈これは大二條殿の北方。〉小一條大將の御姬君こそは唯今の皇后宮と申しつるよ。三條院の御時に后に立て奉らむとおぼしけるに、うちよりて大納言の娘にて后に立つ例なかりければ、御父のおとゞ小一條の大將を贈太政大臣になしてこそは后に立てさせ給ひてしか。されば皇后宮いとめでたくおはしますめり。御せうと一人は侍從入道、今一所は大藏卿通任の君こそはおはすめれ。又伊豫の入道もそれぞかし。今一所の女君こそはいと甚しく心うき御ありさまにておはすめれ。父大將のとらせ給へりけるそうぶんの領所近江にありけるを、人にとられければすべきやうなくて、かばかりになりぬれば物のはづかしさも知られずや思はれけむ、よるかちより御堂に參り給ひてうれへ申し給ひしはとよ。殿のおまへは御堂の佛の御前にねんじゆしておはしますに夜いたく更けにければ御脇息によりかゝりて少しねぶらせ給へるに、いぬふせぎのもとに人のけはひのしければ、怪しとおぼしめしけるに女のけはひにて忍びやかに、「物申し候はむ」と申すを、御ひが耳かと思しめすに、あまた度になりぬれば誠なりけりとおぼしめして、いとあやしくはあれど「たぞ、あれは」と問はせ給ふに、「しかじかの人の申すべことき候ひてまゐりたるなり」と申し給ひければ、いといとあさましくは思し召せど、荒く仰せられむもさすがにいとほしくて、「何事ぞ」と問はせ