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をしろくぬひたり。堀川の少將基俊、から織物、うら山吹、三重の狩衣、柳だすきを靑く織れる中に櫻をいろいろにおれり。萠黃のうちぎぬ櫻をだみつけにして、わちがへをほそく金の文にしていろいろの玉をつく。にほひつゝじの三つぎぬ、紅の三重のひとへこれもはくちらす。二條中將經俊〈良イ〉〈良敎の大納言の御子なり。〉、これもから織物の櫻萠黃、紅の衣おなじひとへなり。皇后宮權亮中將實守、これも同じ色のかば櫻の三つぎぬ、紅梅の三重のひとへ、馬頭たかよし〈隆親の子にや〉ろくたいの赤色の狩衣、玉のくゝりを入れ、靑き魚綾のうはぎ、紅梅の三つぎぬ、同じ二重のひとへ、薄色のさしぬき、少將實繼松がさねの狩ぎぬ、紅のうちぎぬ、紫の二つぎぬ、これもいろいろのぬひものおきものなどいとこまかになまめかしくしなしたり。陵王の童に四條大納言の子、裝束常のまゝなれど紫のろくたいのはんじり、かねのもん、赤地のにしきの狩衣、靑き魚綾のはかま、しやく木のみなえりほね紅の紙にはりてもちたる、用意けしきいみじくもてつけてめでたく見え侍りけり。笛もちみち、たかやす、笙きんあき、宗實、篳篥兼行、大皷敎藤、鞨皷あきなり。三のつゞみのりより、左萬歲樂、右地久、陵王、輪臺、靑海波、太平樂、入綾、實多いみじく舞ひすまされたり。右落蹲、左春鶯囀、右ことり蘇、後參、賀殿の入あやも實冬舞ひ給ひしにや、暮れかゝる程に何のあやめも見えずなりにき。御方々宮だちあかれ給ひぬ。おなじ二月十七日に、又新院富小路殿にて舞御らん。その朝大宮院まづ忍びて渡らせ給ふ。一院の御幸は日たけてなる。冷泉殿より唯はひわたる程なれば、樂人舞人今日の裝束にて上達部など皆步みつゞく。庇の御車にて御隨身十二人、花ををり錦をたちかさねて聲々御