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にて、なりもかへらで中納言になり給ひき。陣の座の除目に、かんだちめになる例は、これや始めにて侍りけむとぞ聞き侍りし。內より院に申させ給ひ、はからはせたまへと、關白におほせられよなど申させたまひけるにや。さまで御けしきもあしくもなかりければ、なさむとせさせ給ふを、法性寺のおとゞ關白にて、あるまじきこととたびたび申させ給ひければ、いつとなくしぶらせ給ひけれど、院にたびたび御使などありて、陣の座にて中納言になり給ひにき。御前にて行はるゝ除目にこそ、上達部はなさるなるに、これよりはじまりて、此の頃はさてなさるゝとぞ聞こえ侍る。うへの御せうとなれば、殿にはさりがたくおはすべけれど、例なき事と申させ給ひけるにこそ。つかさをも返したてまつりて、入りこもり給ひける時、檳榔毛の車やぶりて、家の前の大宮おもての大路にて、取いだして燒き失ひたまひけるは、節會の日にて侍りけるとかや。さて紺の水干に、くれなゐの衣とか着て、馬にて川尻へ、かねとかいふあそびがりおはしける道に、鳥羽の櫻をなむ好き給ひける。かくて月日をわたりてありかむと思ふと院の御おぼえなりし中納言に消息し給ひければ、さもとおぼしめしけれど、うち任せてもえなくて、みかどのせさせ給ふあかざりけるなるべし。さきの宰相にて中納言になる例なき事なれど、隆國の宇治に籠もりゐて、前の中納言より大納言になりたる事の准らへつべきによりてぞ成り給ひける。宰相にまづかへしなさむと御氣色ありけるを、さてはありかむともなかりければ、かたきことなりと侍りけるなるべし。さていりこもり給ひし時、中の院大將まだ中納言など申しゝ折にや。その弓をかり給へりけるが、つかさたてまつ