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るに珍しくもてはやし給へる御遊に皆人心をいれ給へり。琵琶は例の兵部卿宮何事にも世にかたき物の上手に坐していとになし、お前にきんの御こと、おとゞ和琴ひき給ふ。年比添ひ給ひにける御耳の聞きなしにや、いと優に哀におぼさるれば、きんも御手をさをさかくし給はず、いみじきねども出づ。昔の御物語どもなど出できて今はたかゝる御なからひに何方につけても聞え通ひ給ふべき御むつびなど心よく聞え給ひて御みき數多たびまゐりて物のおもしろさも滯りなく御ゑひなきども得とゞめ給はず。御贈物にすぐれたる和琴一つ好み給ふこま笛そへて紫檀の箱ひとよろこひにからの本どもこゝのさうの本など入れて御車におひて奉れ給ふ。御馬どもむかへ取りて右のつかさども高麗の樂してのゝしる。六衞府の官人の祿ども大將たまふ。御心とそぎ給ひて嚴めしきことゞもはこのたびとゞめ給へれど內、春宮、一院、后宮次々の御ゆかりいつくしき程いひ知らず見え渡ることなれば猶かゝる折にはめでたくなむ覺えける。大將の唯一所おはするをさうざうしくはえなき心地せしかど、數多の人にすぐれ、おぼえことに人がらもかたはらなきやうに物し給ふにも、かの母北の方の伊勢の御息所との恨深く挑みかはし給ひけむほどの御すくせどもの行くへ見えたるなむさまざまなりける。その日の御さう束どもなど此方の上なむし給ひける。祿ども大かたのことをぞ三條の北の方は急ぎ給ふめりし。折ふしにつけたる御いとなみうちうちのものゝ淸らをも此方には唯よそのことにのみ聞き渡り給ふを何事につけてかはかゝるものものしき數にもまじらひ給はましと覺えたるを、大將の君の御ゆかりにいとよくかずまへられ給へり。年