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御賀に嵯峨野の御堂にて藥師佛供養し奉り給ふ。いかめしきことはせちに諫め申し給へば忍びやかにとおぼしおきてたり。佛、きやうばこ、ぢすのとゝのへまことの極樂ぞ思ひやらるゝ。最ぞう王經金剛磐若ず命經などいとゆたけき御いのりなり。上達部いと多く參り給へり。御堂のさまおもしろくいはむかたなく紅葉のかげわけ行く野邊の程より始めてみものなるにかたへはきほひ集り給ふなるべし。霜がれ渡れる野原のまゝに馬車の行き通ふ音しげく響きたり。御ず經われもわれもと御方々いかめしくせさせ給ふ。二十三日を御としみの日にてこの院はかくすきまなく集ひ給へるうちに我が御わたくしの殿とおぼす、二條院にてその御まうけはせさせ給ふ。御さうぞくをはじめ大かたのことゞもゝ、皆こなたにのみし給ふを、御方々もさるべきことどもわけつゝ望み仕うまつり給ふ。對どもは人の局々にしたるを拂ひて、殿上人諸大夫院司しも人までのまうけいかめしくせさせ給へり。寢殿のはなちいでを例のしつらひてらでんのいし立てたり。おとゞの西の間に御ぞの机十二たてゝ、夏冬の御よそひ御ふすまなど例の如く、紫の綾のおほひども麗しく見え渡りてうちの心はあらはならず。御前に置物の机二つ唐の地のすそごの覆ひしたり。かざしの臺は沈のけそくこがねの鳥、銀の枝に居たる心ばへなど淑景舍の御あづかりにて、明石の御方のせさせ給へるゆゑふかく心ことなり。後の御屛風四帖は式部卿宮なむせさせ給ひける。いみじくつくして例の四季の繪なれど珍しき泉水だん〈きイ〉などめなれずおもしろし。北の壁にそへて置物の御厨子ふたよろひたてゝ御調度も例のことなり。南の廂に上達部、左右の大臣、式部卿宮をはじめ