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聞えかはし給ひて中の戶あけて宮にも對面し給へり。いと幼げにのみ見え給へば心やすくておとなおとなしく親めきたるさまに昔の御すぢをも尋ね聞え給ふ。中納言の乳母といふ召し出でゝ「同じかざしを尋ね聞ゆればかたじけなけれど、わかぬさまに聞えさすれどついでなくて侍りつるを、今よりは疎からずあなたなどにも物し給ひて怠らむことをば驚かしなども物し給はむなむ嬉しかるべき」などのたまへば「たのもしき御かげどもにさまざまにおくれ聞え給ひて心細げにおはしますめるを、かゝる御ゆるし侍るめればますことなくなむ思ひ給へられける。背き給ひにし上の御心むけも唯かくなむ、御心隔て聞え給はずまだいはけなき御有樣をもはぐゝみ奉らせ給ふべくぞ侍るめりし。うちうちにもさなむ賴み聞えさせ給ひし」など聞ゆ。「いとかたじけなかりし御せうそこの後はいかでとのみ思ひ侍れど、何事につけても數ならぬ身なむ口惜しかりける」と、安らかにおとなびたるけはひにて宮にも御心につき給ふべく繪などのことひゝなの捨て難きさま、若やかに聞え給へば、實にいと若く心よげなる人かなとをさなき御心ちには打ち解け給へり。さて後は常に御文かよひなどしてをかしき遊びわざなどにつけても疎からず聞えかはし給ふ。世の中の人もあひなうかばかりになりぬるあたりのことはいひあつかふものなれば「初めつ方は對の上いかにおぼすらむ。御覺えいとこの年比のやうには坐せじ。少しは劣りなむ」などゝいひけるを、今少し深き御志かくてしもまさるさまなるを、それにつけても又安からずいふ人々あるに、かくにくげなくさへ聞えかはし給へばことなほりてめやすくなむありける。神無月に對の上院の