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ゝるゝを、さらばわが身には思ふことありけりとみづからぞおぼし知らるゝ。院わたりたまひて宮女御の君などの御ありさまどもをうつくしうもおはするかなとさまざま見たてまつり給へる御めうつしには年ごろめなれたまへる人のおぼろげならむがいとかくおどろかるべきにもあらぬをなほたぐひなくこそはと見たまふ。ありがたきことなりかし。あるべきかぎりけ高うはづかしげにとゝのひたるに添ひて、はなやかにいまめかしくにほひなまめきたるさまざまのかをりも取りあつめめでたきさかりに見えたまふ。こぞより今年はまさり昨日より今日はめづらしくつねにめなれぬさまのしたまへるを、いかでかくともありけむとおぼす。打ち解けとりつる御手習を硯のしたにさし入れ給へど、見つけ給ひて引きかへし見たまふ。手なとのいとわざとも上手と見えでらうらうしくうつくしげに書きたまへり。

 「身にちかく秋やきぬらむ見るまゝに靑葉の山もうつろひにけり」とある所に目とゞめ給ひて、

 「水鳥の靑ばゝ色もかはらぬをはぎのしたこそけしきことなれ」など書き添へつゝすさび給ふ。ことに觸れて心苦しき御氣色のしたにはおのづからもりつゝ見ゆるをことなくけち給へるもありがたく哀におぼさる。今夜は何方にも御暇ありぬべければかのしのび所にいとわりなく出で給ひにけり。いとあるまじきことゝいみじくおぼし返すにもかなはざりけり。春宮の御方はじちの母君よりもこの御方をばむつましきものに賴み聞え給へり。いと美しげにおとなびまさり給へるを思ひ隔てずかなしと見奉り給ふ。御物語などいと懷しく