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しり目に見おこせて添ひふし給へり。

 「はかなくてうはのそらにぞ消えぬべき風にたゞよふ春のあわ雪」。御手げにいと若く幼げなり。さばかりの程になりぬる人はいとかくはおはせぬものをと目とまれど見ぬやうに紛はして止み給ひぬ。こと人の上ならばさこそあれなどは忍びて聞え給ふべけれど、いとほしくて、「唯心安くを思ひなし給へ」とのみ聞え給ふ。今日は宮の御方に晝わたり給ふ。心ことに打ちけさうし給へる御有樣今見奉る女房などはまして見るかひありと思ひ聞ゆらむかし。御乳母などやうのおひしらへる人々ぞ、いでやこの御有樣一所こそめでたけれ、めざましきことはありなむかしと、打ちまぜて思ふもありけり。女宮はいとらうたげに幼きさまにて御しつらひなどのことごとしくよだけて麗しきにみづからは何心もなく物はかなき御程にて、いと御ぞがちにみもなくあえかなり。ことに恥ぢなどもし給はず唯ちごのおもぎらひせぬ心地して心やすく美しきさまし給へり。院のみかどは雄々しくすくよかなる方の御ざえなどこそ心得なく坐しますと世人思ひためれ。をかしきすぢなまめきゆゑゆゑしき方は人にまさり給へるを、などてかくおいらかにおほしたて給ひけむ。さるはいと御心留め給へるみこと聞きしをと思ふもなまくちをしけれどにくからず見奉り給ふ。唯聞え給ふまゝになよなよと靡き給ひて御いらへなどをも覺え給ひけることはいはけなく打ちのたまひ出でゝ、えみはなたず見え給ふ。昔の心ならましかばうたて心おとりせましを今は世の中を皆さまざまに思ひなだらめて、とあるもかゝるもきは離るゝことはかたきものなりけり、とりど