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らかしこまりていとしどけなげにのたまへばうち笑ひて「おはしませ。いかでか御簾の前をば渡り侍らむ、いときやうぎやうならむ」とて抱き奉りて居給へれば「人も見ず。まろが顏はかくさむ。なほなほ」とて御袖してさしかくし給へば、いとうつくしうてゐて奉り給ふ。こなたにも二宮の若君とひとつにまじりて遊び給ふを、うつくしう見ておはしますなりけり。すみの間のほどにおろし奉り給ふを、二宮見つけ給ひて「まろも大將に抱かれむ」との給ふを、三宮「あが大將をや」とてひかへ給へり。院も御覽じて「いとみだりがはしき御有樣どもかな。おほやけの御近きまもりを、わたくしの隨身にりやうぜむと爭ひ給ふよ。三宮こそいとさがなくおはすれ。常にこのかみにきほひ申し給ふ」と諫め聞えあつかひ給ふ。大將も笑ひて「二宮はこよなくこのかみ心に所さり聞え給ふ御心淸くなむおはしますめる。御年のほどよりはおそろしきまで見えさせ給ふ」など聞え給ふ。うちゑみて、いづれをもいとうつくしと思ひ聞えさせ給へり。「見苦しくかるがるしきくぎやうの御座なり。あなたにこそ」とて渡り給はむとするに、宮たちまつはれて更にはなれ給はず。宮の若君は宮達の御つらにはあるまじきぞかしと御心のうちにおぼせどなかなかその御心ばへを母宮の御心の鬼にや思ひよせ給ふらむと、これも心のくせにいとほしう思さるれば、いとらうたきものに思ひかしづき聞え給ふ。大將はこの君をまだえよく見ぬかなとおぼして、御簾の隙よりさし出で給へるに、花の枝のかれて落ちたるをとりて見せ奉りてまねき給へばはしりおはしたり。ふたあゐのなほしのかぎりを着ていみじう白うひかりうつくしきこと御子達よりもこまかにをか