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あへり。誠に臥し給ひぬるまゝにいといたく苦しがり給ひて、二三日になりぬるにむげに弱るやうにし給ふ。うちにも聞しめし歎く事かぎりなし。御いのりかたかたに隙なくのゝしる。まつりはらへずほふなど、言ひ盡すべくもあらず。世に類なくゆゝしき御有樣なれば「世に長くおはしますまじきにや」と、天の下の人のさわぎなり。苦しき御心地にもかの右近を召し寄せて局など近く給はりて侍はせ給ふ。惟光心地も騷ぎ惑へど、思ひのどめてこの人のたづきなしと思ひたるをもてなし助けつゝ侍はす。君は聊ひまありておぼさるゝ時は、召し出でゝ使ひなどし給へば程なく交らひつきたり。ぶくいと黑うしてかたちなどよからねど、かたはに見苦しからぬわかうどなり。「あやしう短かりける御契にひかされて我も世にえあるまじきなめり。年比のたのみ失ひて心ぼそく思ふらむ慰めにも、若しながらへば萬にはぐゝまむとこそ思ひしか。程もなく又立ちそひぬべきがくち惜しくもあるべきかな」としのびやかにの給ひてよわげに泣き給へば、いふがひなき事をばおきていみじう惜しと思ひきこゆ。殿の內の人、足を空にて思ひ惑ふ。うちより御使雨の脚よりもけにしげし。覺し歎きおはしますを聞き給ふにいとかたじけなくてせめて强く覺しなる。大殿もいみじくけいめいし給ひて日々にわたり給ひつゝさまざまの事をせさせたまふしるしにや、廿よ日いとおもくわづらひ給へれど異なる名殘のこらずをこたりざまに見え給ふ。けがらひ忌み給ひしもひとつに滿ちぬるよなれば覺束ながらせ給ふ。御心わりなくてうちの御とのゐどころに參り給ひなどす。大との我が御車にて迎へ奉り給ひて、御物忌なにやかやとむつかしう愼ませ奉