Page:Kokubun taikan 01.pdf/78

このページは校正済みです

うちより御使あり。昨日もえ尋ね出で奉らざりしより覺束ながらせたまふ。おほとのゝ君だち參り給へど、頭中將ばかりを「立ちながら此方に入りたまへ」との給ひて、みすの內ながらの給ふ、「めのとにて侍るものゝこのさつきの比ほひより重く煩ひ侍りしが頭そり忌む事受けなどしてそのしるしにやよみがへりたりしを、このごろ又起りて弱くなむなりにたる。今一度とぶらひ見よと申したりしかば、いときなきよりなづさひしものゝ今はのきざみにつらしとや思はむと思ひ給へて罷りしに、その家なりける下びとの病ひしけるが俄にえいであへて亡くなりにけるをおぢ憚りて日をくらしてなむとり出で侍りけるを聞きつけ侍りしかば、かみわざなるころはいとふびんなる事と思う給へかしこまりて、え參らぬなり。この曉よりしはぶきやみにや侍らむ、頭いと痛くて苦しく侍れば、いとむらいにて聞ゆ」る事などの給ふ。中將、「さらばさるよしをこそ奏し侍らめ。よべも御遊びにかしこく求め奉らせ給ひて御氣色あしく侍りき」と聞え給ひて、立ちかへり「いかなるいきぶれにかゝらせ給ふぞや。陳べやらせ給ふことこそ誠とも思う給へら〈れイ有〉ね」といふに胸うち潰れ給ひて、かくこまかにはあらでたゞ覺えぬけがらひに觸れたる由を奏し給へ。いとこそたいだいしく侍れ」とつれなくの給へど、心の中にはいふがひなく悲しき事をおぼすに御心地もなやましければ人に目も見合せ給はず、藏人の辨を召し寄せてまめやかにかゝる由を奏せさせ給ふ。おほ殿などにもかゝる事ありてえ參らぬ御消そこなど聞え給ふ。日暮れて惟光參れり。かゝるけがらひありとの給ひて、參る人々も皆立ちながらまかづれば人しげからず召し寄せて「いかにぞ