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ちをかしきわらはべのやんごとなき家の小供などにて、靑き赤きしらつるばみ蘇芳えび染など常のづと例のみづらにひたひばかりの氣色を見せて、短きものどもをほのかに舞ひつゝ紅葉の影に歸り入るほど、日の暮るゝもいとほしげなり。がくそなどおどろおどろしくはせず。うへの御遊はじまりてふんのつかさの御ことども召す。物の興せちなるほどに御前に皆御ことどもまゐれり。宇陀の法師のかはらぬ聲も、朱雀院はいとめづらしくあはれに聞し召す。

 「秋をへて時雨ふりぬる里人もかゝるもみじの折をこそ見ね」。うらめしげにぞおぼしたるや。みかど、

 「世のつねの紅葉とや見るいにしへのためしにひける庭の錦を」と聞え知らせ給ふ。御かたちいよいよねびとゝのほり給ひて唯ひとつものと見えさせ給ふを、中納言のさぶらひ給ふがことごとならぬこそめざましかめれ。あてにめでたきけはひや思ひなしに劣りまさらむ。あざやかに匂はしき所は添ひてさへ見ゆ。笛仕うまつりたまふいとおもしろし。さうがの殿上人みはしにさぶらふ中に辨の少將の聲すぐれたり。猶さるべきにこそと見えたる御なからひなめり。