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む少し人にぬけたりける御心と覺えける。おとゞの御おきてのあまりすゝみて名殘なくくづほれ給ひぬるを世の人もいひ出づることあらむや。さりとてもわが方たけう思ひがほに心おごりしてすきずきしき心ばへなど漏し給ふな。さこそおいらかに大きなる心おきてと見ゆれど、したの心ばへ雄々しからずくせありて人見えにくき所つき給へる人なり」など例の敎へ聞え給ふ。ことうちあひめやすき御あはひとおぼさる。御子とも見えずすこしがこのかみばかりと見え給ふ。ほかほかにては同じ顏を寫しとりたると見ゆるを、お前にてはさまざまあなめでたと見え給へり。おとゞは薄き御直衣白き御ぞの唐めきたるが紋けざやかにつやつやとすきたるを奉りて、猶つきせずあてになまめかしうおはします。宰相殿は少し色深き御直衣に丁子染のこがるゝまでしめる白き綾の懷かしきを着給へる、殊さらめきて艷に見ゆ。灌佛ゐて奉りて御導師遲く參りければ、日暮れて方々よりわらはべいだし布施などおほやけざまにかはらず心々にし給へり。御まへの作法をうつして君達なども參りつどひてなかなか麗はしき御前よりも怪しう心づかひせられておくしがちなり。宰相はしづ心なくいよいよけさうじひきつくろひて出で給ふ。わざとならねどなさけだち給ふ若人はうらめしと思ふもありけり。年頃のつもり取り添へて思ふやうなる御なからひなめれば、水ももらむやは。あるじのおとゞもいとゞしきちかまさりを美くしきものに思して、いみじうもてかしづき聞え給ふ。まけぬる方の口惜しさは猶おぼせど罪も殘るまじうぞ、まめやかなる御心ざまなどの年頃こと心なくて、念じ過ぐし給へるなどをありがたうおぼしゆるす。女御の御