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てもて出で給ふらむに、さて心强くものし給ふいとおもなう人笑へなることなり。おのがあらむ世の限りはひたぶるにしもなどか隨ひくづほれ給はむ」と聞え給ひて俄に御むかへあり。北の方御心地少し例になりて世の中をあさましう思ひ歎き給ふに、かくと聞え給へればしひて立ちとまりて、人の絕えはてむさまを見はてゝ思ひとぢめむも今少し人笑へにこそあらめなどおぼしたつ。御せうとの君達、兵衞督は上達部におはすれば、ことごとしとて、中將、侍從、民部大輔など、御車三つばかりしておはしたり。さこそはあべかめれとかねて思ひつる事なれど、さしあたりて今日を限と思へば侍ふ人もほろほろと泣きあへり。「年頃ならひ給はぬ旅住みにせばくはしたなくてはいかでかあまたはさぶらはむ、かたへはおのおの里にまかでゝしづまらせ給ひなむに」などさゝめく。人々おのがじゝはかなきものどもなど里に運びやりつゝ亂れ散るべし。御調度どもさるべきは皆したゝめ置きなどするまゝにかみしも泣き騷ぎたるはいとゆゝしく見ゆ。君達は何心もなくてありき給ふを母君皆呼びすゑ給ひて「みづからはかく心うき宿世今は見はてつればこの世に跡とむべきにもあらず。ともかくもさすらへなむ。生ひ先とほうてさすがにちりぼひ給はむ有樣どもの悲しうもあべいかな。姬君はとなるともかうなるともおのれに添ひ給へ。なかなかをとこ君達はえさらずまうで通ひ見え奉らむに人の心とゞめ給ふべくもあらず、はしたなうてこそたゞよはめ。宮のおはせむ程かたのやうにまじらひをすとも、かのおとゞたちの御心にかゝれる世にてかく心おくべきわたりぞとさすがにしられて、人にもなり立たむこと難し。さりとて山はや