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をかしかめるは、いかでかゝる御なからひなりけむ」と若き人々は例のさるまじきことをもとりたてゝめであへり。大將はこの中將は同じ右のすけなれば常によびとりつゝねんごろにかたらひ、おとゞにも申させ給ひけり。人がらもいとよくおほやけの御後見となるべかめるしたかたなるを、などかはあらむとおぼしながら、かのおとゞのかくし給へることをいかゞは聞えかへすべからむ、さるやうあることにこそと、心得給へるすぢさへあればまかせ聞え給へり。この大將は春宮の女御の御はらからにぞおはしける。おとゞたちを置き奉りてさしつぎの御おぼえ、いとやんごとなき君なり。年卅二三の程にものし給ふ。北の方は紫の上の御姉ぞかし。式部卿の宮の御おほいきみよ。年のほど三つ四つかこのかみは、ことなるかたはにもあらぬを、人柄やいかゞおはしましけむ、おうなとつけて心にも入れずいかで背きなむと思へり。そのすぢにより、六條のおとゞは大將の御事は、似げなくいとほしからむとおぼしたるなめり。色めかしくうち亂れたる所なきさまながら、いみじくぞ心をつくしありき給ひける。かのおとゞも、もてはなれてもおぼしたらざなり。女は宮仕をものうげにおぼいたなりと、うちうちのけしきもさる委しきたよりしあれば洩り聞きて、唯大殿の御おもむけのことなるにこそはあなれ、まことの親の御心だに違はずばと、この辨の御もとにもせめ給ふ。九月にもなりぬ。初霜むすぼゝれ艷なるあしたに、例のとりどりなる御後見どもの引きそばみつゝもてまゐる御文どもを、見給ふ事もなくて讀み聞ゆるばかりを聞き給ふ。大將殿のには「猶賴みこしも過ぎゆく空のけしきこそ心づくしに、