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なげかし。さりとてかゝる有樣も惡しき事はなけれど、このおとゞの御心ばへのむづかしく心つきなきも、いかなる序にかはもて離れて人の推し量るべかめるすぢを心淸くもあり果つべき。誠の父おとゞもこの殿の覺さむ所を憚り給ひて、うけばりて取り放ちけざやぎ給ふべき事にもあらねば、猶とてもかくても見苦しうかけがけしき有樣にて心を惱まし人にもて騷がるべき身なめりと、中々この親尋ね聞え給ひて後は殊に憚り給ふ氣色もなきおとゞの君の御もてなしを取り加へつゝ人知れずなむ歎かしかりける。思ふ事をまほならずとも片はしにてもうちかすめつべき女親もおはせず、いづ方もいづ方もいと耻しげにいと麗はしき御さまどもには何事をかは、さなむ斯くなむとも聞え分き給はむ。世の人に似ぬ身の有樣をうちながめつゝ夕暮の空の哀げなる氣色をはし近くて見出し給へるさまいとをかし。薄きにび色の御ぞ懷かしき程にやつれて例に變りたる色合にしも形はいと華やかにもてはやされておはするを、御前なる人々は打ち笑みて見奉るに、宰相の中將同じ色の今少しこまやかなる直衣姿にて纓卷き給へるしも、又いとなまめかしく淸らにておはしたり。始より物まめやかに心寄せ聞え給へばもて離れてうとうとしきさまにはもてなし給はざりし習ひに、今あらざりけりとてこよなく變らむもうたてあれば猶みすに几帳添へたる御對面は人づてならでありけり。殿の御せうそこにて內より仰言あるさまやがてこの君の承り給へるなりけり。御返りおほどかなる物からいと目やすく聞えなし給ふけはひのらうらうしく懷かしきにつけてもかの野分のあしたの御朝顏は、心にかゝりて戀しきをうたてあるすぢに