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ど「內より御氣色ある事をかへさひ奏し又々仰に隨ひてなむ異ざまの事はとも斯くも思ひ定むべき」とぞ聞えさせ給ひける、父おとゞはほのかなりしさまを、いかでさやに又見む、なまかたほなる事見え給はゞ斯うまでことごとしうもてなし覺さじなど中々心もとなう戀しう思ひ聞え給ふ。今ぞかの御夢も誠に覺し合せける。女御ばかりにはさだかなる事のさま聞え給ひけり。世の人ぎゝに暫しこの事出さじとせちにこめ給へど、口さがなきものは世の人なりけり。じねんに言ひ漏しつゝやうやう聞え出でくるをこのさがな者の君聞きて、女御の御前に中將少將侍ひ給ふに出で來て「殿は御むすめ設け給へるなり。あなめでたや。いかなる人ふたかたにもてなさるらむ。聞けばかれも劣りばらなり」とあうなげにの給へば女御傍痛しと覺して物ものたまはず。中將「しかかしづかるべき故こそ物し給ふらめ。さても誰が言ひし事を斯くゆくりなくうち出で給ふぞ。物言ひ啻ならぬ女房などもこそ耳とゞむれ」とのたまへば「あなかま、皆聞きて侍り。ないしのかみになるべかなり。宮仕にと急ぎ出で立ち侍りし事は、さやうの御顧みもやとてこそなべての女房達だに仕うまつらぬ事までおり立ち仕うまつれ。御前のつらくおはしますなり」と恨みかくれば、皆ほゝ笑みて「ないしのかみあかばなにがし等こそ望まむと思ふを、非道にも覺しかけゝるかな」とのたまふに、腹立ちて「めでたき御中に數ならぬ人は交るまじかりける。中將の君ぞつらくおはする。さかしらに迎へ給ひて輕め嘲り給ふ。少々の人はえたてるまじき殿の內かな。あな畏こあな畏こ」としりへざまにゐざりしぞきて見おこせ給ふ。にくげもなけれどいと腹惡しげにまじり引き