Page:Kokubun taikan 01.pdf/520

このページは校正済みです

て侍るを、その折はさるひが業とも明し侍らずありしかば、あながちに事の心を尋ねかへさふ事も侍らで、唯さるものゝくさの少きをかごとにても何かはと思ひ給へ許して、をさをさむつびも見侍らずして年月侍りつるをいかでか聞し召しけむ。內に仰せらるゝやうなむある。內侍のかみ宮仕する人なくてはかの所の政しどけなく、女官などもおほやけごとを仕うまつるにたづきなく、事亂るゝやうになむありけるを、只今うへに侍ふ故老のすけ二人又さるべき人々さまざまに申さするをはかばかしう選ばせ給はむ、尋ねにたぐふ人なむなき。猶家高う人の覺え輕からで家の營み立てたらむ人なむ古よりなり來にける。したゝかに賢き方の撰びにてはその人ならでも年月の勞になり昇る類ひあれど、しか類ふべきも無しとならば大方の覺えだにえらせ給はむとなむ內々に仰せられたりしを、似げなき事としも何かは思ひ給はむ。宮仕はさるべき筋にてかみもしもゝ思ひ及び出で立つこそ心高きことなれ。おほやけざまにてさる所の事を掌り政の趣をしたゝめ知らむことは、はかばかしからずあはつけきやうに覺えたれど、などか又さしもあらむ。唯我が身の有樣からこそ萬の事侍るめれと思ひ寄り侍りし序になむ齡の程など問ひ聞き侍れば、かの御尋ねあべい事になむありけるをいかなべい事ぞとも申しあきらめまほしう侍る。序なくては對面侍るべきにも侍らず。やがて斯かる事なむと顯はし申すべきやうを思ひ廻らしてせうそこ申しゝを、御惱みにことつけて物憂げにすまひ給へりし、げに折しもびんなう思ひとまり侍るに、宜しう物せさせ給ひければ猶かう思ひおこせる序にとなむ思ひ給ふる。さやうに傳へ物せさせ給へ」と聞