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る氣色ながら、さすがにいとなごやかなるさましてよりかゝり給へるはことゝなれなれしきにこそあめれ、いであなうたて、いかなるにかあらむ、思ひよらぬ隈なくおはしける御心にてもとより見馴れおふしたて給はぬはかゝる御思ひも添ひ給へるなめり、うべなりけりや。あなうとましと思ふ心もはづかし。女の御さまげにはらからといふとも少し立ちのきてことはらぞかしなど思はむは、などか心あやまちもせざらむと覺ゆ。昨日見し御けはひにはけおとりたれど見るにゑまるゝさまは立ちもならびぬべく見ゆ。八重山吹の咲き亂れたるさかりに露かゝれる夕ばえぞふと思ひ出でらるゝ。折にあはぬよそへなれど猶うち覺ゆるやうよ。花は限りこそあれ、そゝけたるしべなどもうちまじるかし。人の御かたちのよきは譬へむ方なきものなりけり。おまへに人も出で來ずいとこまやかに打ちさゝめき語らひ聞え給ふに、いかゞあらむ、まめだちてぞ立ち給ふ。女君、

 「吹き亂る風のけしきにをみなへししをれしぬべき心ちこそすれ」。委しくも聞えぬに、うちずじ給ふをほの聞くに、にくきものゝをかしければ、猶見はてまほしけれど、近かりけりと見え奉らじと思ひて、立ち去りぬ。御かへし、

 「したつゆに靡かましかば女郞花あらき風にはしをれざらまし。なよ竹を見給へかし」などひがみゝにやありけむ聞きよくもあらずぞ。ひんがしの御方へこれよりぞ渡り給ふ。けさの朝寒なるうち解けわざにや、物たちなどするねびごたち、御前にあまたして細櫃めくものに綿ひきかけてまさぐる若人どもゝあり。いと淸らなる朽葉のうすものいまやう色のにな