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にかゝづらはむすゑにては何の覺えかはたけからむ。異なることなきなうごんのきはの二心なくて思はむには、劣りぬべきことぞと、自らおぼししるにいといとほしうて宮大將などにや許してまし、さてもてはなれいざなひ取りては思ひ絕えなむや、いふかひなきにてもさもしてむとおぼす折もあり。されど渡り給ひて御かたちを見給ひ、今は御琴敎へ給ふにさへことつけて近やかに馴れより給ふ。姬君も初こそむくつけくうたてくも覺え給ひしか、かくてもなだらかに後めたき御心はなかりけりと、やうやうめなれていとしも疎み聞え給はず、さるべき御いらへもなれなれしからぬ程に聞えかはしなどし給ひて、見るまゝにいとあいぎやうづきかをりまさり給へればなおさてもえ過ぐすまじくおぼしかへさる。さばまたさて、こゝながらかしづきすゑてさるべき折々にはかなくうち忍び物をも聞えて慰みなむや、かく又世馴れぬ程の煩はしさこそ心苦しうはありけれ、おのづから關守强くとも物の心を知りそめいとほしき思ひなくて我が心も思ひいりなば繁くともさはらじかし、と覺しよるもいとけしからぬ御心なりや。いよいよ心安からず思ひ渡らむも苦しからむ、なのめに思ひ過ぐさむことの、とざまかうざまにかたきぞ世づかずむつかしき御かたらひなりける。內のおほいとのは、この今の御むすめのことを、殿の人も許さず輕めいひ世にもほきたることゝそしりいふと聞き給ふに、少將のことのついでにおほきおとゞのさることやと問ひ給ひし事語り聞えければ、笑ひ給ひて「さかし。そこにこそ年頃音にも聞えぬ山賤の子迎へ取りて物めかしたつれ。をさをさ人の上もどき給はぬおとゞのこのわたりのことは耳とゞめてぞおと