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侍らず。さきざきもしろしめし御覽じたる三つ四つは引きかへしはしたなめ聞えむもいかゞとて御ふみばかり取り入れなどし侍るめれど、御かへりは更に聞えさせ給ふ折ばかりなむ。それをだに苦しいことにおぼいたる」と聞ゆ。「さてこの若やかにむすぼゝれたるはたがぞ。いといたうかいたる氣色かな」とほゝゑみて御覽ずれば、「かれはしふねくとゞめて罷りにけるにこそ。內のおほいどのゝ中將の、この侍ふみる子をもとより見知り給へりける傳へにて侍りける。又見いるゝ人も侍らざりしにこそ」と聞ゆれば、「いとらうたきことかな。下臈なりともかのぬしたちをばいかゞいとさははしたなめむ。公卿といへどこの人のおぼえに必ずしも並ぶまじきこそ多かれ。さる中にもいとしづまりたる人なり。おのづから思ひ合する世もこそあれ。けちえんにはあらでこそ言ひまぎらはさめ。見所あるふみかきかな」などとみにもうち置き給はず。「かう何やかやと聞ゆるをもおぼす所やあらむとやゝましきを、かのおとゞに知られ奉り給はむこともまだかう若々しう何となきほどにこゝら年經給へる御中に、さし出で給はむことはいかゞと思ひめぐらし侍る。猶世の人のあめるかたに定りてこそは人々しうさるべきついでもものし給はめと思ふを、宮はひとり物し給ふやうなれど人がらいといたうあだめいて通ひ給ふ所あまた聞え、めしうどゝかにくげなる名のりする人どもなむ數あまた聞ゆる。さやうならむことはにくげなうて見なほい給はむ人はいとようなだらかにもてけちてむ。小し心にくせありては、人にあかれぬべき事なむおのづから出で來ぬべきを、その御心づかひなむあるべき。大將は年經たる人のいたうねびすぎたる