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でゝ、「かやうに音づれ聞えむ人をば人えりいらへなどはせさせよ。すきずきしうあざれがましき今やうのことのびんないことしいでなどする、をのこのとがにしもあらぬことなり。われにて思ひしに、あななさけな、うらめしうもと、その折にこそむじんなるにや。もしはめざましかるべききはゝけやけうなどもおぼえけれ。わざと深からで花蝶につけたるたよりごとは心ねたうもてないたる、なかなか心だつやうにもあり。又さて忘れぬるは何のとがかはあらむ。物のたよりばかりのなほざりごとに口とう心えたるもさらでありぬべかりける後のなんとありぬべきわざなり。すべて女の物つゝみせず、心のまゝに物の哀も知り顏つくりをかしき事をも見知らむなむそのつもりあぢきなかるべきを、宮、大將はおほなおほななほざりごとをうち出で給ふべきにもあらず、又あまり物の程知らぬやうならむも御有樣に違へり。そのきはよりしもは心ざしのおもむきに隨ひてあはれをもわき給へ。らうをも數へ給へ」など聞え給へば、君はうち背きておはするそばめいとをかしげなり。なでしこの細長にこの頃の花の色なる御こうちきあはひけぢかう今めきて、もてなしなどもさはいへど田舍び給へりし名殘こそ唯ありにおほどかなるかたにのみは見え給ひけれ。人の有樣を見しり給ふまゝにいとさまようなよびかにけさうなども心してもてつけ給へれば、いとゞ飽かぬ所なく華やかに美しげなり。ことひとゝ見なさむはいとくち惜しかるべうおぼさる。右近もうちゑみつゝ見奉りて、親と聞えむには似げなう若くおはしますめり、さしならび給へらむはしもあはひめでたしかしと思ひ居たり。「更に人の御せうそこなどは聞え傅ふる事