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能くおぼえて、これはかどめいたる所添ひたる。ころもがへの今めかしう改れる頃ほひ、空の氣色などさへあやしうそこはかとなくをかしきをのどやかにおはしませば萬の御遊にて過ぐし給ふに、對の御方に人々の御文しげくなり行くを、おぼしゝことゝをかしうおぼいてともすれば渡り給ひつゝ御覺じ、さるべきには御かへりそゝのかし聞え給ひなどするを、うち解けず苦しいことにおぼひたり。兵部卿の宮の程なくいられがましきわびごとゞもを書き集め給へる御ふみを御覽じつけてこまやかに笑ひ給ふ。「早うより隔つることなうあまたのみこ達の御中に、この君をなむかたみにとり別きて思ひしに、唯かやうのすぢのことなむいみじう隔て思ひ給ひてやみにしを、世の末にかくすき給へる心ばへを見るがをかしうあはれにもおぼゆるかな。猶御かへりなど聞え給へ。少しもゆゑあらむ女のかのみこよりほかに又言の葉をかはすべき人こそ世におぼえね。いと氣色ある人の御さまぞや」と若き人はめで給ひぬべく聞え知らせ給へど、つゝましくのみおぼいたり。「右大將のいとまめやかにことごとしきさましたる人の、こひの山にはくじのたふれまねびつべき氣色に憂へたるもさる方にをかし」と皆見くらべ給ふ中に、唐のはなだの紙のいとなつかしうしみ深うにほへるを、いとほそくちひさく結びたるあり。「これはいかなればかくむすぼゝれたるにか」とて引きあけ給へり。手いとをかしうて、

 「思ふとも君はしらじなわきかへり岩もる水に色し見えねば」。書きざま今めかしうそぼれたり。「これはいかなるぞ」と問ひ聞え給へど、はかばかしう物も聞え給はず。右近召し出