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るかたのいふかひなきにてすぐしてむと思ひて、つれなくのみもてなしたり。人がらのたをやぎたるに强き心を强ひて加へたれば、なよ竹の心ちしてさすがに折るべくもあらず。誠に心やましくて强ちなる御心ばへを言ふ方なしと思ひて泣くさまなどいと哀なり。心苦しくはあれど見ざらましかば口惜しからましとおぼす。慰め難く憂しと思へれば、「などかくうとましきものにしも覺すべき。覺えなきさまなるしも契ありとは思ひ給はめ。むげに世を思ひしらぬやうにおぼゝれ給ふなむいとつらき」と怨みられて、「いとかくうき身の程の定らぬありしながらの身にてかゝる御心ばへを見ましかば、あるまじき我が賴にて見直し給ふのちせもやと思ひ給へ慰めましを、いとかう假なる浮寢の程を思ひ侍るにたぐひなく思う給へ惑はるゝなり。よし今は見きとなかけそ」とて、思へるさま實にいとことわりなり。おろかならず契り慰め給ふこと多かるべし。とりも鳴きぬ。人々起き出でゝ「いといぎたなかりける夜かな。御車ひき出でよ」などいふなり。守も出できて、「女などの御方違こそ、夜深く急がせ給ふべきかは」などいふ。君は、又かやうのついであらむ事もいとかたし、さしはへてはいかでか御文なども通はむことのいとわりなきをおぼすにいと胸いたし。奧の中將も出でゝいと苦しがれば、ゆるし給ひても又引き留め給ひつゝ「いかでか聞ゆべき。世にしらぬ御心のつらさも哀も淺からぬ世の思出はさまざま珍らかなるべき例かな」とてうち泣き給ふ御氣色いとなまめきたり。鷄もしばしばなくに心あわたゞしくて、

 「つれなさを恨みもはてぬしのゝめにとりあへぬまで驚かすらむ」。女身の有樣を思ふに