Page:Kokubun taikan 01.pdf/447

このページは校正済みです

ればすべてまかでぬ。いみじくおのおのはさゝめき笑ひけり。かやうにわりなうふるめかしう傍いたき所のつき給へるさかしらにもて煩ひぬべくおぼす。恥かしきまみなり。「古代の歌よみは、から衣、袂ぬるゝかごとこそはなれねな。まろもそのつらぞかし。更にひとすぢにまつはれて今めきたることの葉にゆるぎ給はぬこそねたきことはあれ。人のなかなることををりふしおまへなどのわざとある歌よみのなかにてはまとゐはなれぬみもじぞかし。昔のけさうのをかしきいどみにはあだ人といふいつもじをやすめどころにうちおきて言の葉のつゞきたよりある心地すべかめり」など笑ひ給ふ。「よろづの草子歌まくらよくあないしり見つくしてそのうちの詞を取り出づるに、よみつぎたるすぢこそはつようは變らざるべけれ。常陸のみこの書き置き給へりけるかうや紙の草子をこそ見よとておこせ給へりしが、和歌の髓腦いと所せう病さるべき所おほかりしかば、もとよりおくれたる方のいとゞなかなか動きすべくも見えざりしかば、むづかしくてかへしてき。能くあないしり給へる人の口つきにてはめなれてこそあれ」とてをかしくおぼいたるさまぞいとほしきや。うへいとまめやかにて、「などてかへし給ひけむ。書きとゞめて姬君にも見せ奉り給ふべかりけるものを。こゝにも物のなかなりしも蟲皆そこなひてければ見ぬ人はた心ことにこそはとほかりけれ」とのたまふ。「姬君の御學問にいとようなからむ。すべて女はたてゝ好めること設けてしみぬるはさまよからぬことなり。何事もいとつきなからむはくち惜しからむ。たゞ心のすぢをたゞよはしからずもてしづめおきてなだらかならむのみなむめやすかるべかりける」な