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て「人の心こそうきものはあれ。とかくをさなき心どもにもわれに隔てゝ疎ましかりけることよ、又さもこそはあらめ。おとゞの物の心を深う知り給ひながら我をゑんじてかくゐて渡し給ふ事、かしこにてこれより後安きこともあらじ」と打ち泣きつゝのたまふ。折しもくわざの君參り給へり。もしいさゝかのひまもやとこの頃はしげうほのめき給ふなりけり。內の大臣の御車のあれば、心のおにゝはしたなくてやをらかくれて我が御方に入り居給へり。內の大殿のきんだち、左の少將、少納言、兵衞佐、侍從、大夫などいふも皆こゝにはまゐりつどひたれど、みすの內はゆるし給はず。左衞門督權中納言なども異御腹なれど故殿の御もてなしのまゝに今も參り仕うまつり給ふ事ねんごろなれば、その御子どもさまざま參り給へどこの君に似るにほひなく見ゆ。大宮の御志もなずらひなくおぼしたるを、唯この姬君をぞけぢかうらうたきものにおぼしかしづきて御かたはら避けずうつくしきものにおぼしたりつるを、かくて渡り給ひなむがいとさうざうしきことを覺す。殿は「今の程にうちに參り侍りて夕つ方迎へに參り侍らむ」とて出で給ひぬ。いふかひなきことをなだらかにいひなして、さてもやあらましと覺せど猶いと心やましければ、人の御程の少しものものしくなりなむにかたはならず見なして、そのほど志の深さ淺さのおもむきをも見定めてゆるすとも殊更なるやうにもてなしてこそあらめ、制し諫むとも一所にてはをさなき心のまゝに見苦しうこそあらめ、宮もよもあながちに制しのたまふことあらじとおほせば、女御の御徒然にことつけてこゝにもかしこにもおいらかにいひなして渡し給ふなりけり。宮の御ふみにて、「お