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御かへりみを給はりてこの君の御德にたちまちに身をかへたると思へばまして行くさきは並ぶべき人なき御覺えぞあらむかし。大學に參り給ふ日は寮門に上達部の御車ども數しらず集ひたり。大方世に殘りたる人あらじと見えたるに又なくもてかしづかれて繕はれ入り給へるくわざの君の御樣げにかゝる交らひには堪へずあてに美しげなり。例の怪しき者共の立ちまじりつゝ來居たる座の末をからしと思すぞいとことわりなるや。こゝにても又おろしのゝしるものどもありてめざましけれど少しも臆せず讀みはて給ひつ。昔覺えて大學の榮ゆる頃なればかみなかしもの人我も我もとこの道に志し集まればいよいよ世の中にざえありはかばかしき人多くなむありける。もんにんぎさうなどいふなる事どもよりうちはじめ、すがすがしうしはて給へれば偏に心に入れて師も弟子もいとゞ勵まし給ふ。殿にも文作りしげく博士才人ども所えたり。すべて何事につけても道々のざえの程顯はるゝ世になむありける。

かくてきさき居給ふべきを齋宮の女御をこそは母君も御後見とゆづり聞え給ひしかばとおとゞもことづけ給ふ。源氏のうちしきり后に居給はむこと世の人免し聞えず。弘徽殿のまづ人より先に參り給ひにしもいかゞなどうちうちに此方彼方に心よせ聞ゆる人々覺束ながり聞ゆ。兵部卿の宮と聞えし今は式部卿にてこの御時にはましてやんごとなき御覺えにておはする御むすめほいありて參り給へり。同じごと王女御にてさぶらひ給ふを同じくは御母かたにて親しくおはすべきにこそ、母きさきのおはしまさぬ御かはりの後見にとことよせて似つかはしかるべくととりどりにおぼし爭ひたれど猶梅壺居給ひぬ。御さい