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もいと口惜しく大將左衞門督の子どもなどを我よりは下臈と思ひおとしたりしだに皆各加階しのぼりつゝおよすげあへるに淺黃をいとからしと思はれたるが心苦しう侍るなり」と聞え給へばうち笑ひ給ひて「いとおよすけても恨み侍るなりな。いとはかなしや。この人のほどよ」とて、いとうつくしとおぼしたり。「學問などして、少し物の心もえ侍らばその恨はおのづから解け侍りなむ」と聞え給ふ。あざなつくることはひんがしの院にてし給ふ。ひんがしの對をしつらはれたり。上達部殿上人珍しくいぶかしきことにしてわれもわれもと集ひ參り給へり。博士どもゝなかなか臆しぬべし。「憚る所なく例あらむに任せてなだむることなくきびしう行へ」と仰せ給へば、しひてつれなく思ひなして、家より外に求めたるさう束どものうちあはずかたくなしき姿などをもはぢなくおもゝちこわづかひうべうべしくもてなしつゝ座につき並びたる作法より初め、見も知らぬさまどもなり。若ききんだちはえ堪へずほゝゑまれぬ。さるは物笑ひなどすまじくすぐしつゝ靜まれる限をとえり出して、甁子なども取らせ給へれどすぢ異なりける交らひにて右大將民部卿などのおふなおふなかはらけとり給へるを淺ましう咎め出でつゝおろす。「おぼしかいもとあるじはなはだ非ざうに侍りたうぶ。かくばかりのしるしとあるなにがしを知らずしてやおほやけには仕う奉り給ふ。はなはだをこなり」などいふに人々皆ほころびて笑ひぬれば「又なり高し、なり止まむ。はなはだ非ざうなり。座をひきて立ちたうびなむ」などおどしいふもいとをかし。見ならひ給はぬ人々は珍しく興ありと思ひ、この道より出で立ち給へる上達部などはしたり顏にうちほ