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の氷もえもいはずすごきに、わらはべおろして雪まろばしせさせ給ふ、をかしげなる姿かしらつきども月にはえて大きやかになれたるがさまざまの衵亂れ着、帶しどけなき宿直姿なまめいたるに、こよなう餘れる髮の末、白き庭にはましてもてはやしたるいとけざやかなり。小きはわらはげて喜びはしるに扇なども落してうちとけ顏をかしげなり。いと多うまろばさむてとふくつけがれどえも押し動かさでわぶめり。かたへは東のつまなどに出で居て心もとなげに笑ふ。一とせ中宮の御まへに雪の山造られたりし世にふりたることなれど猶珍しくもはかなき事をしなし給へりしかな。何の折々につけても口惜しう飽かずもあるかな。いとけどほくもてなし給ひてくはしき御有樣を見ならし奉りしことはなかりしかど御まじらひの程に後やすきものにはおぼしたりきかし。うち賴み聞えてとある事かゝる折につけて何事も聞え通ひしに、もて出でゝらうらうしき事も見え給はざりしかど、いふかひありて思ふさまにはかなき事わざをもしなし給ひしはや。世に又さはかりのたぐひありなむや。やはらかにおびれたるものから深う由づきたる所の並びなく物し給ひしを君こそはさいへど紫のゆゑこよなからず物し給ふめれど少し煩はしきけそひてかどかどしさのすゝみ給へるや苦しからむ。前齋院の御心ばへは又さまことにぞ見ゆる。さうざうしきに、何とかはなくとも聞え合せわれも心づかひせらるべき御あたり唯このひとゝころや世に殘り給へらむ」とのたまふ。「ないしのかみこそはらうらうしくゆゑゆゑしき方は人にまさり給へれ。淺はかなるすぢなどもてはなれ給へりける人の御心を怪しくもありける事どもかな」とのたま